平成四年は「暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)」が施行された年だ。その暴対法の施行がO氏にメリットをもたらしたことになる。もともと、追い出しや取り立ては暴力団のシノギだった。しかし、暴対法によって動きを封じられたため、一般人であるO氏にお鉢が回ってきたのだ。代紋をかざすことで成り立ってきた商売が、逆に代紋によって不可能になった。不動産事情に詳しく、弁が立ち、ハッタリも利かせられるO氏は、穴埋め役として好都合な存在に映ったのだろう。
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いや、なによりもO氏には「これ以上落ちようがない」という開き直りがあった。それこそが最大の武器になったのかもしれない。どちらかという優しい顔だちのO氏だが、追い出しや取り立てとなればパンチパーマをあて、それらしいスーツに身を包むことも辞さなかった。この時、自分が少しずつ裏街道へ進みつつあることにO氏はまだ気づいていなかった。こうして平成四年もO氏は定職に就くことなく、非合法スレスレの仕事で収入を得ていった。頭の片隅には五千万円近い借金の圧迫感がなかったといえば嘘になるだろう。開き直りだけがO氏を支えていたことになる。もっとも、このまま玉川台に住み続けることができれば、もしかしたらO氏は立ち直ることができたのかもしれない。危ない仕事に手を出しているとはいえ、まだそれは手が後ろに回るほどではなかった。それに、くどいようだが不動産ブローカーとしての腕は悪くない、いやむしろいいほうだ。O氏はその腕を発揮できる時が来るのを待ちわびながら、日々をしのぎ続けた。しかし、平成五年八月になって送られてきた一通の通告書が、そんなO氏の夢を完全に打ち砕く。